二重鉤括弧(『』)は、鉤括弧(「」)の中で鉤括弧を使いたいときに使用します。たとえば会話文の中でほかの人が喋った言葉を表す場合などです。
太郎は怒りに震える声を精一杯抑えながら言った。
「あのとき佐藤さんは『必ず約束は守るから、少しのあいだ辛抱してくれ』と言ったじゃないですか」
また、書名や雑誌名を示す場合にも使います。示したい作品が複数に分かれている場合は、作品全体に二重鉤括弧、個別の作品に鉤括弧を用います。
この二つの使い分けは明確に決められているわけではないので、作品全体や個別の作品といっても判断に迷うところがあると思います。どちらを使用しても問題ないのですが、文章を書く前に自分の中でルールを定めておき、表記を統一するようにしましょう。
二重鉤括弧に独自の意味を持たせない
二重鉤括弧を、複数の人間が同時に発話したことを表すのに使っている文章を見たことがありますが、これは誤用なので使用しないほうがいいです。複数の人が発話したなら、それを表す文章を会話文の直後に書き加えましょう。
写真の真ん中で微笑む男の姿を見て、太郎と花子は顔を見合わせて叫んだ。
『あのときの人だ!』
写真の真ん中で微笑む男の姿を見て、太郎と花子は顔を見合わせた。
「あのときの人だ!」
二人は声をそろえて叫んだ。
二重鉤(ふたえかぎ)と読む?
先日、日本テレビの『あなたは小学5年生より賢いの?』という番組で、『』をなんと読むかという問題が出題されました。
出典は広辞苑(第七版)で、正解は「ふたえかぎ」。
それでは「二重鉤括弧(にじゅうかぎかっこ)」は間違いなのかといえば、そうともいえません。
文化庁の文化審議会国語分科会が作成した「新しい公用文作成の要領に向けて」という報告の中に、以下のような文章があります。
法令や公用文で用いる括弧は、()と「」を基本とする。()や「」の中に、更に()や「」を用いる場合にも、そのまま重ねて用いる。ただし、解説・広報等では、「」の中で『』(二重かぎ括弧)を使うこともある。また、閉じの丸括弧 )(片括弧)のみで用いることもある。
ここでは「ふたえかぎ」ではなく「二重かぎ括弧」と表記されています。
この報告は、誤読を避けた読みやすい文章の書き方について書かれたものであり、もしここで書かれている「二重かぎ括弧」を「ふたえかぎかっこ」と読むなら、「ふたえかぎ括弧」もしくは「二重(ふたえ)かぎ括弧」と表記したはずです。というわけで、ここでの読みは「にじゅうかぎかっこ」と考えていいと思います。
この例に限らず「二重鉤括弧(にじゅうかぎかっこ)」は一般的に使われている名称といえるので、このまま使用しても問題ないでしょう。
創作に役立つ本
小説を書くための指南書であり、モチベーションを高めるのにも使える一冊。古い本ですが、文章作法は時代によってそう変化するものではないので今でも役立ちます。定番のロングセラー。